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【前編】IT時代に書写の授業が30時間はヘン?プログラミング必修化で学校教育はどう変わる?

更新: 2020.06.08

テックキャンプテックキャンプ エンジニア転職(旧TECH::EXPERT)を運営する株式会社div 代表取締役 真子就有(まこゆきなり)が、テクノロジー時代のキーパーソンに話を聞く連載 TECH::LEADERS(テックリーダーズ)。

ついに2020年に迫った小学校でのプログラミング必修化。今回の対談ゲストは、小学校でのプログラミング教育の支援をしているNPO法人 みんなのコード 代表理事の利根川裕太さんです。みんなのコードが提供する「プログラミング指導教員養成塾」は、Googleと協働していることでも注目されています。

「そもそも、プログラミング必修化って?」。プログラミング必修化について、前後編にわけてお届けします。前編では、プログラミング必修化に至った背景と学校教育の現状についてうかがいます。

そもそも、プログラミング必修化って何をするの?

真子:僕も含めよくわかっていない人も多いと思うのですが、そもそも2020年から始まる学校でのプログラミング必修化って何でしょうか?

利根川:実は、必修化と言われているけれど中学校や高校ではすでにやっているんですよ。

真子:そうなんですね。

利根川:中学校は技術・家庭の中で必ず、高校は情報の教科の中で、一部の学校では学習するようにはなっています。ただ、メディアなどで「必修化」というと小学校でのプログラミング必修化を指すことが多いようです。

でも、中学や高校の先生も全員がプログラミングに詳しいわけではないので、その単元をスーーッと流してしまうこともあって。

真子:薄い授業になりがちなんですね。小学校で必修化されるとどのように授業がされるようになるのでしょうか? 「プログラミング」の教科ができる?

利根川特に「プログラミング」という独立した教科ができるわけではないです。算数・理科などの既存の教科の中で、あるいは総合的な学習の時間でプログラミングに触れる方向で進んでいます。例えば、算数の時間に多角形の作図を定規とコンパスでやっていたところを「プログラムでかいてみましょう」というような。

真子:アプリやゲームを作ろう、じゃないんですね。

利根川:そう、違うんですよ。例えば、総合的な学習の時間だと、自分たちの暮らしがどのくらいコンピュータに囲まれているか調べてみて、その上で自分たちの暮らしを便利にするにはどういったプログラミングが必要そうか考え、最後にプロトタイプのようなものを作りプレゼンするといった学習活動がありえますね。

あるいは、算数や理科など従来はアナログでやっていたところを「ちょっとプログラミングでやってみよう」と取り入れていく形です。

真子世の中の8割の人は必修化と聞くと「プログラミングの教科ができるんだ」と思いそうだけど、そうじゃないんですね。

利根川:例えば、環境問題って学校で繰り返し学んだ記憶がありませんか?

真子:あります、あります。

利根川:でも「環境」って教科があるわけじゃないですよね。

真子:確かに、そうですね。

利根川:環境って、特定の教科で学ぶのではなくて、理科でもあるし社会でもあるし家庭科でもある。そうして教科をまたいで学んできたんですよね。今回のプログラミング必修化もそう考えるとわかりやすい。プログラミングはさまざまな教科の側面があるから、いろんな教科で少しずつやっていこうと。

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プログラミング必修化と言っても年に10時間超えて設けられることはまれ

真子:個人的には、プログラミングの重要性を考えると思い切って1教科にして9年くらい学んでもいいと思いますけど……。

利根川そうですね。私もプログラミングだけでなく、「コンピュータ・サイエンス」として、テクノロジーの単なる利用者にとどまらず、テクノロジーの創造側に回る観点を作る教科が小学校高学年くらいから毎週1時間あったらいいなと思いますよ。

でも、現場が実行できないと意味がない。小学校の先生はおよそ40万人いて、その全員にプログラミングのトレーニングをするのは、今取り組んでいるごくシンプルな内容であっても、ものすごく大変なんです。

真子:少しだけであっても、それが難しいんですね。具体的にどんな教材やソフトを使い、どんな内容をやるのかも決まってないんですか?

利根川:そうですね。学習指導要領には大まかなことしか書かれていないので、どんな教材を使うのか、どんな内容を学ぶのかは各学校の裁量に任されています。

ただ、多くの学校は年10時間未満しかプログラミングの時間を設けられないといわれています。だから2020年の必修化で大きく変わるわけではなく、これから大きく変化をするための一歩と考えたほうがいいですね。

政府の会議などに私もたまに呼ばれるのですが、その中でも「テクノロジー周りは社会がどんどん変わるんだから教育もこれに留まらず変わらないと」と発破をかけています。

手書きしない時代に書写の授業が年30時間。これってヘンじゃない?

:現状からして難しいとはいえ、プログラミング学習が年10時間じゃ少なすぎませんか?

利根川:一番多い学校で年35時間とは聞いたことがありますね。

真子:それは革新的ですね。

利根川:はい、そうなんですけど、革新的すぎて周りがついていけなくなりがちなんですよ。

真子:それは先生がついていけないんですか?

利根川:先生ですね。何をどうやるかは校長に左右されるところがあって。だから属人的なんですよ。その小学校も校長が代わったらどうなるのかな、と。

真子:なるほど……難しいですね。保護者からするとイケてると思うけれど現場がついて来ないのか。

利根川:保護者からも批判があるみたいですよ。「従来の学びを大事にしてほしい」と。

真子:意外ですね。なぜそうなるのでしょうか?

利根川:東京でテクノロジーに携わる仕事をしているとテクノロジーの重要性を当たり前だと感じてしまいますが、そういった認識はまだ全国的なものではありません。ごく一部の例外的な都市を除くと地方都市やその更に先の小さな町に住んでいるエンジニアって極めて少ないですよね?

やはり、クラスや学年の保護者に誰もテクノロジー関連の人がいないとテクノロジーを作る側への理解はなかなか広がらないんです。

あと、時間の配分にも問題があって、例えば、書写って年30時間も授業時間を確保してあるんですよ!

真子:30時間……!

利根川:プログラミングが10時間以下で、手書きをする機会がこれだけ減った令和の時代に書写が30時間。これってちょっと変だと私は感じています。実際に、文部科学省の調査でも小学生のタイピングが1分間に5.9文字しか打てないという事実もあります。バランスを実社会に照らして是正したほうがいいのではないかと思います。

真子:だからこそ感情でなく、論拠に基づいてプログラミング教育を推し進める必要があるのですね。

利根川:でも、実際に批判として来るのは「◯◯教育は文化だから大事だ」というあまり論理的でない批判で……。私も文化が大事なのはわかるんですけど。

真子:「伝統文化を尊重せずに、なぜそんなにプログラミングをやる必要があるの?」って感じなんですね。難しいですね。

利根川:新しいことをやると何かしら問題が起こるじゃないですか。公教育は「教科書的」という言葉が象徴するように、評価が固まっていて批判を受け付ける余地の少ない事を扱うことが多く、、なかなか新しいことを取り入れにくい傾向があると思います。

真子:プラスにならなくてもいいからって考えですね。企業でも新たにルールを作ると何かしらの反対意見が出ます。はじめからそのルールがあればみんな受け入れるけれど、途中で新ルールを加えると「そのままでよかったでしょう」って。これはどの組織にもありますね。

子どもを楽しませたい気持ちは先生も一緒。でも目指す方向が「過去の理想」であることが多い

利根川:加えて、学校教育ならではの引っかかる点もあって。

真子:それは何でしょう?

利根川:学校の先生になる人には「自分もあのときのあの先生みたいになりたい」と思っている人が多いんですよ。だから、子どもの未来を見据えてこんな教育を届けたいという観点があまり持てないというか。

真子:過去の自分の良い体験を再現したいということですか。

利根川:はい。どうしても過去を向いているところはあると思います。

もちろん、それが悪いわけではありません。「自分が受けてきた教育と同じものを他の子どもにも届けたい」まっすぐな思いがよい方向に作用することもたくさんある。いじめや教員の働き方などさまざまな問題が叫ばれる中、現場の先生たちは本当に必死になって頑張っていると思います。

でも、それだけでは子どもが未来を生きる力を育むために不十分なこともあって。

真子:一方、「みんなのコード」のカリキュラムを受けるような、きちんと未来を向いている先生もいますよね。

利根川まだまだ少数派ですが未来を見据えて私たちと志を一緒にしてくれる先生がいることは嬉しいですね。でも、最も多い「学習指導要領に書かれたしプログラミング教育の準備をしないと」と考える先生たちにも、もっと楽しくプログラミングを学んでほしい。そのために重要なポイントって何だと思いますか?

真子:うーん、何でしょう。

利根川子どもの反応なんですよ。

プログラミングの授業をやると、見違えたように手をあげていい意見を出してくれる子がいます。普段の授業になじめない子が、プログラミングだとヒーローになれる。そうした子どもの反応を見て、変わる先生が多いです。そういうきっかけを作りながら、子どもに必要な学びを届けたい先生と一緒に教育を変えていきたいですね。

 

前編はここまで。「学校現場では新しいことを取り入れにくい」「過去に自分が憧れた先生に自分もなりたいとの思いで先生になる人が多い」との利根川さんの言葉に、元学校教員の筆者もうなずくところがありました。

後編では、利根川さんが「みんなのコード」を設立するに至ったきっかけと、プログラミング必修化に際して保護者が子どもにできることについてうかがっています。「必修化するなら子どもをプログラミング教室に通わせたほうがいいの?」と保護者が気になるポイントもたくさん。ぜひ、ご覧ください。

Interviewer 真子 就有
Writer アカギ ヒトミ
Editor 桜口 アサミ

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この記事を書いた人

真子 就有(まこ ゆきなり)
テックキャンプを運営する株式会社divのCEOです。

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